映水BLOG

2024.7.20 / コラム

雛人形の右大臣・左大臣とは?並べ位置や役割を解説

七段飾りの雛人形で、親王・官女、五人囃子と上段から数えて四段目に並ぶ右大臣と左大臣。

弓矢や剣を身につけていて、他の人形と比べて独特な雰囲気があります。

右大臣・左大臣という名前に馴染みはあるけれど、どんな役割をしているかまで知っている人は少ないのではないでしょうか。

この記事では、右大臣・左大臣の役割や、正しい並べ方、どちらが偉いのかなどの疑問を解説していきます。

男雛女雛を守る随身「右大臣・左大臣」

五段飾りや七段飾りの雛人形において、上段から数えて四段目に飾られる二体の人形が「右大臣」「左大臣」です。

この二体は「親王飾り」や「三段飾り」などのコンパクトなタイプの雛人形には登場しません。

雛人形の右大臣・左大臣は「随身(ずいしん・ずいじん)」とも呼ばれています。

「随臣」と書かれることもあります。

また、右大臣・左大臣と言われている人の役職は、それぞれ「右近衛少将(うこんのしょうしょう)」「左近衛中将(さこんのちゅうじょう)」です。

しかし、すでに右大臣・左大臣という呼び名で広まっていますので、以降も右大臣・左大臣として説明していきます。

随身の役割

雛人形に登場する左大臣・右大臣ですが、正式名称は随身(随臣)です。

随身は、天皇皇后の護衛としての役割があります。

雛人形において男雛と女雛はそれぞれ、天皇と皇后になぞらえたものです。

天皇と皇后が外出する際も宮中にいる際も二人の横につき、いざというときは身を挺して二人を守る、現在でいうボディガードやSPような役割といえるでしょう。

なお、随身は平安時代、右近衛府(うこんえふ)と左近衛府(さこんえふ)から選ばれた官人・舎人(とねり)が務めていました。

右近衛府と左近衛府とは、ともに行幸の警備や宮中の警固などを担当した朝廷の常備軍のことを指します。

右大臣・左大臣は、地位としては三人官女や五人囃子よりも位も高く、とくに左大臣は一ノ上(いちのかみ)とも言い、公卿(くぎょう)の筆頭でした。

  • 右大臣

右大臣は力を司る若者の随身です。

緋色の衣装を身にまとい、白いお顔をしています。

手には弓と矢を持っています。

右大臣は左大臣の補佐という立場にあり、左大臣が不在のときには、右大臣が左大臣の代わりを務めることもあるそうです。

  • 左大臣

左大臣は知恵を司る老人の随身です。

黒色の衣装を身にまとい、赤いお顔に白く長い髭を生やしていることが多いです。

右大臣と同様に、手には弓と矢を持っています。

右大臣・左大臣の持ち物

お道具の持たせ方は、どちらも右手に矢を持たせ、冠の後ろに「巻纓(けんえい)」という薄い羽根が丸まったような飾りを付けます。

持ち物は右大臣・左大臣ともに共通で、「剣、弓、矢」といった武器を持っています。

  • ・儀仗の剣(ぎじょうのけん)

「儀仗」というのは儀礼のために用いられる武器や武具のことで、腰に下げています。

  • ・儀仗の弓(ぎじょうのゆみ)

公家の武官の束帯、分かりやすく言うと当時の軍人のフォーマルウェアを着た状態でこの弓を持つので、こちらも武器としてではなく装飾の施された美しい弓になっています。

また公家の中でも最高幹部とされる職位にあたる「公卿」が持つ「儀仗の弓」は色や巻が違います。

儀仗の弓は人形の左手に持たせます。

  • ・矢羽

こちらも弓と同様に装飾性が高く作られるもので、位によって色や柄が違いました。

材料には鷲や鷹などの大きい鳥の尾羽が使われていたようです。

人形の右手に持たせますが、持たせる時には矢の羽根の部分が下にくるように持たせましょう。
背中に背負わせる矢羽は人形の左肩(向かって右側)から矢の羽根の部分が見えるように背負わせます。

  • ・巻纓(けんえい)

薄い羽根が丸まったような飾りで、冠の後ろにつけます。

右大臣と左大臣はどちらが偉いの?

宮中では色によって、地位と身分が示されていました。

推古天皇、聖徳太子によって冠位十二階の官職・位階の色が制定され、緋袍は五位、黒袍は四位以上を表していました。

よって、緋色の衣装である右大臣よりも、黒色の衣装である左大臣の方が上位であることがわかります。

ただしそもそもの話になりますが、右大臣・左大臣は、本来であればかなり高位の存在。

特に左大臣は公卿(くぎょう)の筆頭であり、そのような高位の人が、一般的に下級官人の役割である随身を務めることはないといわれています。

また、随身の立場で緋袍や黒袍を着用することは通常ありません。

このように実際の決まりとの矛盾はありますが、雛人形は装飾的要素を含んでいるお飾りですので、俗称である右大臣・左大臣という呼び方や、衣装の色が浸透しているのです。

公卿の官位

公卿の官位は以下の順番で配置されています。

太政大臣→左大臣→右大臣→大納言→中納言→参議

  • 太政大臣

太政大臣(だいじょうだいじん)は、律令制度における最高位の官職であり、天皇を補佐し、政務を総括する役割を担っていました。

具体的な職掌はなく、名誉職としての側面が強かったと言われています。

  • 大納言

大納言(だいなごん)は、太政官における高官であり、大臣とともに国政を議し、天皇に近侍して政務について奏上し、勅命を宣下する役割を担っていました。

また、大臣が欠員や休暇の際にはその代行を務めることもありました。

  • 中納言

中納言(ちゅうなごん)は、大納言に次ぐ官職であり、大納言とともに朝政に参与し、律令国家の政務運営に当たりました。

天武天皇の時代に初めて設置され、その後も重要な役割を果たしました。

  • 参議

参議(さんぎ)は、太政官の一員として、政務に参与し、議論を行う役割を担っていました。

大臣や納言とともに国政を議し、政策の決定に関与しました。

並べ位置は自分から見て右?左?

左大臣の方が右大臣よりも地位が上であることからもわかるように、当時は左の方が右よりも上位であると考えられていました。

だからといって、雛人形と向かい合ったときに自分から見て右にくるのが右大臣、左にくるのが左大臣というように並べるのは誤りです。

正しい右大臣・左大臣の並び方は、男雛から見て右に右大臣、左に左大臣となるようにします。

そのため雛人形を並べる人から見ると、右にいるのが左大臣、左にいるのが右大臣ということになります。

間違えやすいので、しっかりと覚えておきましょう。

なお、当時は左が上位という考え方であるのにもかかわらず、なぜ男雛は女雛よりも右側にあるのだろうと、疑問に思う人もいるかもしれません。

もともと男雛は女雛の左側に並んでいたのですが、大正天皇の即位の礼のときに、洋装の天皇陛下が西洋文化に倣って皇后陛下の右側に立たれたことで、この風習が雛人形にも反映されたといわれています。

これは関東で作られる関東雛の特徴で、京都で作られる京雛は、今でも当初のまま左側に男雛、右側に女雛のスタイルを貫いています。

まとめ

右大臣は力を司る若者、左大臣は知恵を司る老人の姿をしていて、左大臣の方が高位であることは、それぞれの衣装の色からも判断できます。

雛人形を飾りながら、それぞれのお人形にはどういった役割があるのか、衣装の色や持ち物の理由などについて話し合うのも面白いですよ。

当工房では、江戸時代から続く伝統技術で雛人形を作成しています。

雛人形は、大切なお子様の健やかな成長と幸せを願い、お守りとなる日本の伝統文化です。

お気に入りの雛人形を飾り、お子様の誕生を家族で毎年お祝いしていきましょう。

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