雛人形のお顔の作りを比較!伝統の桐塑頭と現代の石膏頭を職人が解説
雛人形は、お顔で選びたい!そう思っている方も多いと思います。
実は、ひな人形のお顔の作り方には、伝統技術で作られる「桐塑頭(とうそがしら)」と現代の技術で作られる「石膏頭(せっこうがしら)」の大きく分けて二種類があり、それぞれの特徴や材質、工程には大きな違いがあります。
こちらを読むことで、伝統工芸で作られるお顔と、石膏を使用する現代のお顔の違いが分かります。
なぜなら、実際に伝統工芸で雛人形のお顔を作っている職人が「桐塑頭」と「石膏頭」を比べているからです。
こちらでは、
・雛人形のお顔の歴史
・桐塑頭と石膏頭のお顔ができあがるまで
・桐塑頭と石膏頭の特徴
についてまとめています。
雛人形のお顔の歴史
雛人形の歴史は古く、平安時代にまでさかのぼるといわれています。3月3日の上巳(じょうし)の節句に使用された形代(かたしろ)という紙で作られた小さなお人形から始まったとされ、やがて立雛(たちびな)ができあがり、色々な雛人形が誕生しました。その頃の雛人形のお顔は木彫をベースとして作られていましたが、江戸時代の中期頃になると雛人形は女子の初節句を祝う大切な行事となり、木彫ベースのお顔を少しでもたくさん作ろうと、桐の木の粉と※しょうふ糊を混ぜた桐塑(とうそ)という材質が使われるようになりました。そして確立されたのが桐塑頭です。江戸時代の中期頃から昭和中期頃までの長い間、この桐塑頭の技術は雛人形のお顔を支えていました。ただ、この桐塑頭で雛人形のお顔を作るということは非常に難しいことでした。そして石膏頭の技術が少しずつ研究され始め、1970年頃には、出来上がった良いお顔をシリコンで型を取り、その作った型に石膏を流し込み、型を取ったお顔と同じものを量産するようになりました。この石膏頭の技術が確立され、良いお顔を早くたくさん正確につくることができるようになりました。現在、日本の雛人形のお顔のほとんどがこの石膏頭で作られるようになり海外でも多く作られています。そして伝統工芸の桐塑頭で雛人形のお顔を作る職人も日本で数人となりました。
※しょうふ糊・・・小麦粉から抽出されたでんぷんのり
桐塑頭と石膏頭ができあがるまで
伝統工芸 桐塑頭
伝統工芸 初めのお顔の状態
桐塑頭の雛人形は、熟練の職人が桐の木の粉や貝殻の粉、※膠(にかわ)などの天然素材を使用し、貝殻の粉を膠で溶いた胡粉を、地塗り、中塗り、上塗りとそれぞれ何度も何度も塗り重ね、一カ月以上掛け制作しています。表情をかたち作ることや、目、鼻、口を小刀で彫刻をすることなど手作業に頼る部分が非常に多くあるため、一つ一つのお顔が特別な雛人形になります。桐塑に胡粉を塗り仕上げられたお顔は、やさしく輝いており、100年以上大切にできる作りです。また、年月とともに塗り重ねられた胡粉が落ち着き味わいもでてくる日本の伝統工芸のお顔です。
※膠・・・動物のせき髄などから採れるゼラチン。
生地抜き
木を彫り、お顔の原型を作ります。その原型から型をおこします。
型に桐の木の粉としょうふ糊を混ぜて練った桐塑(とうそ)を詰め、生地抜きをします。
生地は、2週間以上掛け完全に乾燥させます。
目入れ
生地を乾燥させる際にできるゆがみやでこぼこを直し、ヤスリを掛け、全体の形をきれいに整えます。
そしてガラスでできた目を入れます。目の左右の高さや距離、傾きで表情は大きく変わりますので、とても重要な仕事です。
地塗り
貝殻の粉と膠を混ぜ合わせ、地塗り胡粉を練り、生地に塗り重ねていきます。
膠は気温によりとても変化しますので、胡粉との分量はその都度、職人の勘で決めています。
ハケを使い、塗り重ね、乾燥させ、また塗り重ねるという作業を2回ほど繰り返します。
置上げ(おきあげ)
胡粉と膠を硬く練り、目、鼻、口を盛り上げます。
目、鼻、口の大きさ、高さは、職人の感覚で盛り上げていきますので、一つ一つのお顔が特別になります。
中塗り
置上げの胡粉が乾いたら、小刀を使い、目、鼻、口の形を彫刻し、同時に全体の形も確認します。
そして真ん中の塗り仕事の「中塗り」をしていきます。
こちらも同じ作業を6回から8回ほど繰り返し、塗り重ねていきます。
目、鼻、口の彫刻
中塗りを塗り重ね、生地の表面がきれいになったら、小刀で目、鼻、口の彫刻をしていきます。
ガラスの目は、完全に隠れた状態ですので、瞳を探すと同時に、目の表情も表現し、二重まぶたも小刀一本で彫ります。鼻、小鼻、鼻の穴などを彫刻し、唇も彫刻をします。この作業が桐塑頭と石膏頭の工程の大きく異なる部分でもあり、最も難しい仕事です。
上塗り
小刀で、お顔を表現したら最後の仕上げの上塗りを塗り重ねます。この仕上げの胡粉には、特別に上質な貝殻の粉と膠を使用します。
この作業も6回から8回ほど塗り重ねます。
彩色 歯や舌の表現
最後の仕上げの塗り仕事が終わったら、目の上に乗った胡粉を小刀でさらい、絹毛を植えるための溝を彫り、筆と墨を使い、眉毛、まつ毛、髪の毛の生え際を描いていきます。そして口紅などのお化粧もしていきます。さらに、小さな舌を表現し、歯を胡粉で一本一本つくり、筆と墨を使用しお歯黒にします。
毛植え 結髪
お化粧が終わったら、絹毛に糊を付け、丁寧に植え、結髪をして桐塑頭のお顔は完成します。
現代の石膏頭
現代 初めのお顔の状態
石膏頭の雛人形は、シリコンの型に石膏を流し込んで作られます。目、鼻、口をかたち作る仕事はなく、シリコンの型の通りにそのまま表現されますが、目のふちを小刀でさらう仕事、仕上げの塗り仕事、筆仕事、結髪(けっぱつ)などの仕事は必要です。良いお顔を早くたくさん正確に作ることができ、海外でも多く作られています。
型抜き
原型を制作し、シリコンで型を取ります。
制作した型に石膏を流し込んで型抜きをします。
型抜きが終わりました。目、鼻、小鼻、口、歯、二重まぶた、髪の毛を植える溝などもシリコンの型の通りに表現されます。
一週間ほど乾燥させ、表面の穴などを修正します。
目切り
目の線に沿って余った石膏を小刀で取り除いていきます。
目入れ
裏からガラスの目を入れます。隙間ができないようぴったりと固定します。
※目は、前から入れる場合もあります。
上塗り
最後の仕上げの上塗りを塗り重ねます。
上質な貝殻の粉と膠を混ぜて練った上塗り胡粉を3回から4回ほど塗り重ねます。
彩色
仕上げの上塗りが終わったら、目の上に乗った胡粉を小刀で取り、筆と墨を使用し、まつ毛、眉毛、髪の毛の生え際を描き、お化粧をします。
毛植え 結髪
絹毛に糊を付け、丁寧に植えていき、結髪をして石膏頭は完成します。
※こちらの石膏頭はこの記事を書くために特別に制作しました。当工房では、石膏頭の雛人形は制作しておりません。
桐塑頭と石膏頭の特徴
右のお顔が味岡映水作の伝統の桐塑頭で制作した雛人形のお顔です。
左のお顔は、一般的な石膏頭です。
左 現代の石膏頭 右 伝統の桐塑頭
- ・伝統の桐塑頭
桐の木の粉や胡粉、膠などの天然素材を使用して作られている。
江戸時代から作られている伝統工芸品である。
表情を彫刻して表現をするため、世界に一つのお顔ができあがる。
あたたかくやさしいツヤがあり、長く飾ることにより味わいが出てくる。
石膏頭よりも長持ちする。江戸時代からの作品も残っている。
国内でしか生産されていない。
時間と手間が非常にかかる。
ヒビが入ることがある。
お顔の良し悪しが職人の腕に左右される。
- ・現代の石膏頭
石膏を使用して作られている。
1970年ごろから主流となっている。
シリコンの型を使用するため、安定したお顔を作ることができる。
職人の腕に左右されることがなく、いいお顔を作ることができる。
同じ原型から作られたお顔が全国にたくさんある。
桐塑頭よりも早くたくさん正確に作ることができる。
通常販売されているお顔。
海外でも多く制作されている。
シミや変色が出たり、表面の胡粉がはがれることがある。
まとめ
雛人形のお顔には、桐塑頭と石膏頭の二種類があり、それぞれ材質や工程、特徴には大きな違いがあります。
桐塑頭と石膏頭があるということと、それぞれの特徴をよく理解して、どこでどのようにしてできあがるのかということまでわかって買うことができたらそれが一番いいことですね。
素敵な雛人形を見つけてください。
江戸時代には当たり前にあった桐塑胡粉仕上げの技術を伝える職人は、今では日本で数人になってしまいました。桐塑胡粉仕上げでしか表現できない温もりや質感、美しさを大切にし、人形を制作しています。工房での一日一日のほんの少しずつの積み重ねがいつか形になり、後世に伝えていけるような作品が出来たらいいなと思っています。
- 投稿日時:2020.6.04 11.17.06 / カテゴリー:コラム
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